工場の生産性向上とメンテコストの最適化に
工場での保全行為といえば、あらかじめ設計したスケジュールに沿って、部品交換やメンテナンスをする「予防保全」が知られています。ただ、近年はIoTの概念の浸透とともに、生産ラインへの影響が少なく稼働率を高く維持できる「予知保全」へのニーズが高まっています。
弊社にも工場用機器メーカーさんから、食品工場の生産ライン向けに予知保全システムを組み込みたいというご相談がありました。システムの目的は、生産ラインのダウンタイムを最小限に抑えることです。稼働状況をリアルタイムでモニタリングし、機器トラブルの予兆を検知します。メンテナンスや部品交換作業のタイミングも逆算して、生産ラインの稼働率を損なわないようにする仕組みが要件になりました。
「予防保全」の場合は、設備メーカーや工場の現場担当者の経験則などから「壊れる可能性が高まる」タイミングを計算し、一定の間隔でメンテナンスを実施します。日常点検や3カ月・1年といった定期点検など、「時間」を基準にした保全アプローチになります。計画や見通しが立てやすい一方で、十分に使用可能な部品の交換や過剰な点検頻度につながりやすいといった点が懸念されます。
「予知保全」は、生産現場の設備状況から対象機器の不具合の兆候を察知し、故障発生を未然に防ぐアプローチです。予防保全に比べて、保全のタイミングや回数などにロスが出にくいのが特長になります。
データを活用してトラブルを予め防ぐ
例えば缶飲料の生産ラインには、飲料を容器に充填する、容器に蓋をする、パッケージングする、洗浄するといった複数の機械化された工程が走ります。それぞれの設備の稼働回数、それこそパーツごとの回転数などに応じて、故障率の高まる閾値があり、そのタイミングを検知してメンテナンスを実施することで、故障の発生を未然に防ぐことができます。
予知保全システムの導入にあたっては、生産ラインの要所にモニタリング用センサーを設置し、AWS IoTで吸い上げたデータをRDBに蓄積して処理、ウェブダッシュボードに表示する流れを基本構成としました。システムは部品の稼動時間だけでなく、使用回数や回転数などのデータを監視し、一定の閾値に達すると「交換アラート」が出ます。
生産管理者やオペレーターが生産ラインの状態をリアルタイムで遠隔監視し、交換アラートが出たら作業員に必要な指示を出すことができます。また、自動発注システムと連携することで、必要な部品を自動的にベンダーへ発注することも可能です。
今回のケースは24時間稼働ではなかったので、生産ラインが止まる時間帯に機器のメンテナンスを実施する方式を採用しました。予知保全はブレなく必要なときだけ保全活動を行えるため、人件費や部品に関するコストを最適化できるわけです。
予知保全導入でチョコ停がゼロに
なお、生産設備のトラブルでラインが停止する機会損失について製造現場では、数時間以上にわたり停止する「ドカ停」(ドカっと停止)と、数分〜数十分で一時停止する「チョコ停」(チョコっと停止)という呼称で2種類に大別されています。
今回の食品工場では、1日あたり最大10件ほど「チョコ停」が発生しており、その一部を占めていたのが、機器の部品不良によるラインの部分的な停止でした。予知保全システムの導入後は、部品由来の「チョコ停」を全て防げるようになり、他にも「チョコ停」の対策を実施した効果測定もできるようになりました。チョコ停の積み重ねがドカ停につながっていくこともあるので、その意味でも大きな成果と言えるでしょう。
食品工場のケースは一例ですが、同様のシステムは他の生産現場の設備に対する予知保全にも横展開できるものです。種々の制約でインターネット回線を使用できない工場でも、AWS IoTならソラコムなどのデータ通信モジュールなど代替手段を選ぶことができます。
製造業における生産効率の向上やコスト削減に向けた取り組みにおけるAWSの活用は、今回のような予知保全システムだけでなく、製造物の品質管理やサプライチェーンとの連携など、多くの活用が考えられます。導入をご検討されている方、仕組みの構築や運用で悩まれている方、ぜひお気軽にお問い合わせください。